輪島に生まれ、工房のわきで育った私ですが、職業人として改めて見つめると面白い道具や作業がいくつもあります。以前も触れましたが、今日にいたるまで何百、何千という職人の知恵と工夫が蓄積され、削ぎ磨かれた道具、工法であるため、私ごときが容易く指摘すべきでは無いのもわかっていますが・・・。
写真は下地作業における生漆の計量。下地では生漆と米糊を等量混ぜ合わせて、「ハラ」と呼ばれる漆を用意します。この作業を私がはじめて行ったとき、何故、液体に近いものを平面(ヘラ)ですくっているのか!? 度々計量するなら、計量カップの使用や、小分けにして保存する方法はないのか!? と疑問を感じたものです。
輪島に戻った時に、工房の作業には感心することと同じくらい、質問、疑問も抱きました。自分なりに考えて答えを見つけたり、職人に聞き、納得し、改めて感心して・・・・。
写真に戻りますが、この作業での私の疑問に対する職人の答えは、とてもシンプルで反論を奪うに十分でした。「漆は貴重やからね。少しも無駄にできんから。」
木の命を扱わせてもらう者として、有るべき姿勢です。継承するのは技だけではなく、技を受け継ぐ者としての心得も然り・・・・でも、その精神を忘れずとも、この作業もう少し効率的に出来ませんかね・・・。
生漆を計量中です
塗師の家 専用駐車場のご案内
大型連休も後半です。輪島の方はお天気が今ひとつはっきりしませんが、たくさんの観光客の方が訪れて町も賑わいをみせています。
このほど、場所がわかりにくいとお叱りをいただいていた塗師の家の専用駐車場に、遅まきながら看板を設置いたしました。駐車場は朝市通りから1本海側の路地にあります。ここから約30m先の左側が塗師の家・ギャラリーの入口となっております。控えめな社員が多いせいか看板も若干控えめではありますが、お車でご来店のお客様はどうぞこの看板を目印に駐車場をご利用ください。
回る御風呂
漆の乾燥には適切な温度と湿度が必要です。「乾燥」といいながら厳密には乾燥ではない、ということは以前にも触れましたが、漆の器に適度な温度と湿度を与える乾燥?スペースを、「風呂」と呼んでいます。
写真の風呂は上塗用の風呂、回転風呂です。露天風呂や水風呂、電気風呂など様々な風呂を耳にしますが、回転風呂はなかなか他所でお目にかかることのない、漆器にとっては実に心地良さそうな御風呂です。
漆の乾燥は時間を要します。漆を塗ったばかりの器を据え置いたまま乾燥すると、重力の影響を受けて均一な塗面に仕上がりません。そこで塗面が落ち着くまでの間、回転させながら乾燥させようと開発されたのがこの回転風呂です。古いものは錘で回転させていましたが、今はモーターでゆっくりと回転させています。やはり大切なのは温湿度管理。器がのぼせてしまわないように、上塗師は温湿度に目を光らせて、緊張の風呂上がりを待ちます。
桜が満開です
ここ奥能登輪島でも桜が満開になりました。市内の桜の名所の一つ、鳳来山公園で撮った写真をUPします。この公園は木々に囲まれた小高い丘の上にあり、北は遥か沖合に七ッ島が浮かぶ日本海、西には袖ヶ浜や光浦海岸、東には瓦屋根の連なる町並みや漁港の景色を望みながら、木漏れ日のさす遊歩道を散策することができます。
里桜
時代が進むにつれ、日本人の好みは「梅」から落花の美である「桜」へと移行してきました。漆の絵柄も「梅」が古来より多種にわたり、桜の絵柄は近代に入り増えてきています。古来より絵柄に使われてきた桜はヤマザクラ。王朝文学や歌に詠まれた桜の多くがこのヤマザクラを指しています。それに代わり近年多く見られるのが「染井吉野」(ソメイヨシノ)。園芸種のため、種が出来ないことから挿し木で増やすそうです。運良く種が出来たとしても、その種からは芽が決して出ることは無いそうです。固有種(野生種)のヤマザクラに対し、園芸種のソメイヨシノは「里桜」と呼ばれるそうです。
桜の開花予想の方法の一つに、蕾10個の重さを量り、その重さが「1g」になると10日後に花が咲くとされているそうです。このわずか「1g」に、春の喜びや希望が込められています。輪島測候所が有人であったころ、一本松公園に標準木があり、職員が時期になると毎日観察を行い開花宣言がされた事もありました。
今年の輪島の開花は4月14日頃とされていましたが、最近肌寒い日が続いていたせいか、今日13日現在、町中で見かける桜はまだほとんど開花していません。蕾は徐々に赤みを増してきているので、来週にはお花見ができそうです。
ウマもいます
工房内には「ウマ」がいます。年輩のウマですがとても良く働いてくれます。
こちらの画像がそのウマ。上塗の漆を濾す際に使用する道具です。上塗にはホコリは厳禁。当然、使用する漆にもホコリや塊りが入っていてはいけません。上塗師は漆を塗る前に「ウマ」と和紙を用いて、漆を濾して使います。勿体ないと思うかもしれませんが、和紙は2枚、4枚、8枚と枚数を増やしながら3回に分けて濾していきます。
一度、「和紙5枚で2回濾した方が材料と時間の無駄がないのでは…」と提案したことがあります。しかしこの作業を見ていると、単に漆を濾すということだけではなく、上塗作業にあたる前の精神統一、漆の木に対する感謝の再確認といった要素を多分に含んでいるように感じ、それ以上口出しするのを止めました。
傍らで私たちのやり取りを聞いていた「ウマ」は、ずっと変わらず続いてきたことの理由を良く分かっているようで、いつものようにじっと黙って聞いていました。
猿山岬の雪割草
ようやく寒気が緩み、雪とは違って、芽生えを促すかのように木々に温む雨があたります。多かった残雪も陽当たりのよい斜面から波を引くように消えてゆき、ようやく雪割草が咲き始めました。
能登半島の左肩に位置する猿山。その山腹の傾斜地に小さな花を咲かせます。可憐なその姿は、奥能登に小さな春の訪れの喜びを与えてくれます。地面に這って撮影をすると、カサコソ音が聞こえます。もしかすると枯葉を持ち上げる芽生えの音かもしれません。この小さな春の使者は3月下旬にかけ、白・桃・紅の濃淡さまざまな色を帯びて咲きます。近年の山野草ブームもあり盗掘が後を絶たず、群生地では国定公園の特別保護地区に指定され、植物の採取は厳しく制限されています。
「精神一到」の軍配
大相撲春場所は、白鵬の22回目の優勝で幕を閉じました。やっぱりここ一番に強いですね〜。
スポーツ新聞で取り上げられたのでご覧になられた方もいらっしゃるかと思いますが、白鵬関が横綱昇進の伝達式の口上で述べた「精神一到」の文字が描かれた軍配があります。この軍配は、ご依頼を受けて当社が製作させていただいたものです。以下に記事の一部を抜粋してご紹介します。
(スポーツ報知・2012年3月18日付より引用・写真も転載させていただきました)
…07年夏場所後に決めた横綱昇進の伝達式での口上で述べた「精神一到」が、行司の軍配に描かれた。口上の文句が軍配のデザインになるのは異例。白鵬の思いが、土俵を裁く行司に届いた。…ひとつの刺激が、白鵬の背中を後押ししている。横綱昇進の伝達式で述べた「精神一到」の四字熟語が、このほど行司の軍配に描かれたのだ。製作したのは長年にわたり横綱を支援する岐阜市内で会社を経営する山田喜久二(54)さん。「精神一到」は、中国の宋代の儒学者である朱子の言葉で「精神を集中し努力すれば、どんな難しいことでも成し遂げられる」との意味がある。関係者によると、感銘を受けた山田さんが土俵を裁く行司の軍配に、この言葉を込めたいと考え、製作した。素材はけやきで輪島塗。同じ立浪一門の大島部屋に所属する幕内行司・木村寿之介に贈呈し、使っている。行司の軍配に描くデザインに決まりはなく、模様や漢詩などの文字、家紋などが主だ。横綱が昇進の伝達式で述べた言葉が描かれた例はなく、寿之介は「横綱の言葉なので、非常に重く私自身も受け止めながら裁きに努めています」と神妙だった。白鵬は口上が軍配になったことに「うれしいですね。私から寿之介さんへ言葉のプレゼントです」と明かした。…軍配にも刻んだ「精神一到」を貫き、新たな歴史を塗り替える。
製作させていただいた当社としても、たいへん光栄に思っています。今後の私たちのものづくりも、この「精神一到」の気構えで続けていきたいですね。白鵬関の更なるご活躍も期待しています。
>




