輪島屋善仁の職人を紹介します


当社工房の職人は現在10名。一般に輪島塗の製造は分業化されており、商品は各工程専門の職人の分業のリレーによって完成します。当工房では「下地」「研物」「上塗・中塗」「蒔絵」の4部門に分かれて日々製作にあたっています。
物静かに黙々と取り組む者、話好きで新しいことを積極的に試す者…と、それぞれ個性的な職人が揃っておりますが、「漆芸史上最良のものづくり」を目指す心はひとつです。4月からは久しぶりに新弟子が2名加わりましたので、追ってご紹介したいと思います。

各工程の簡単な説明のあと、一人一人仕事への思いを語ってもらいましたのでご紹介します。



下地(したじ)

下地は木地に最初に漆を塗っていく工程です。輪島塗の下地は「布着せ本堅地」と呼ばれ、その大きな特徴は、木地の傷みやすい部分に布を貼って補強すること、また市内の小峰山で採れる地の粉(珪藻土の粉末を蒸し焼きにしたもの)を生漆に混ぜてヘラ付けし、強度を高めることなどが挙げられます。下地は完成すると見えなくなりますが、ここをしっかり作っておかないと良質な漆器にはなりません。輪島塗が輪島塗であるための最も基本的な工程といえるでしょう。上塗師となる職人も、新弟子として入門するとまずは下地の修行から始めます。


下地師

戸前宏治(とまえ こうじ)

戸前

父は大工をしています。幼い時から父を見て育って「自分も大工に…」と思っていたら、祖母が漆器づくりの世界へ入る事を強く勧めてくれました。以来20年余り。近年、乾漆技法の素地づくりも始めました。一から形をつくり出していく作業はとても面白く、下地の経験を生かした仕上げ方も、色々と考えていきたいと思っています。


下地師

西 久人(にし ひさと)

西

下地は木地に最初に漆を塗っていく工程なので、器の塗り上がりを想像しながら地付けをしています。
ある程度の経験は積んできたので、地付けの肌を見て「まあまあかな…」と思うのですが、翌日改めて見ると直したい箇所が出てきます。いつも「昨日の自分よりは腕を上げよう」と思っていますが、なかなか叶いません。


下地師

武井成人(たけい なりひと)

武井

下地は、家でいうと縁の下の基礎づくりともいわれます。丸い物や隅をわざわざ固いヘラで地付けするのは一見不合理に思えますが、適度な力加減でしっかりと付ける事が大事だと思っています。時間のあるときは、展覧会やギャラリーを出来るだけ見て回る事にしています。以前、自分が仕上げた品物を見てもらって、「個性が出てきた」と先輩に誉められた時は素直に嬉しかったです。



研物(とぎもの)

漆器づくりは塗りと研ぎを交互に繰り返しながら完成に近づいていきます。研物は前工程の塗り跡を砥石などで平滑に研ぎならし、その後の塗りが美しく仕上がるように塗面を整える作業です。
一見地味な作業のように見えますが、器物の角や隅の大きさを微妙に調整し、美しく通った線や滑らかな面のつながりを作ることによって、完成した漆器の印象を大きく左右することになる大切な工程です。そのため、器物の形に合わせて加工した多くの砥石を使い分けて作業します。繊細な形の見極めが要求されるからでしょうか、研物は昔から女性の仕事とされてきました。


研物師

阿畠明美(あばたけ あけみ)

阿畠

近年よりこの工房に入って仕事をしています。
以前は他の会社で同じ研物をしていたのですが、この工房ではより丁寧な面づくりが求められています。器の種類も多く、覚える事がどんどん増えていきますが、同時に研物の面白味も少し解りかけてきたようにも思います。


研物師

西村ひろみ(にしむら ひろみ)

西村

漆の仕事がしたくて、県外から越してきました。研ぎの仕事は裏方の仕事で、携わった結果は塗った後に答えが出るので、落ち込むこともあります。
まだ駆け出しで先輩の指導の下、面と隅を意識しながら日々勉強しています。なかなか思うようにいきませんが、充実しています。



上塗・中塗(うわぬり・なかぬり)

長い時間と工程を経て下地塗、地研ぎを終えると、漆器づくりは中塗、そして最終工程の上塗に入ります。
当社では岩手県二戸市で漆の森を契約栽培し、そこで採取した純日本産の漆を上塗に使用しています。漆は産地、採取年、漆掻き職人によって性質が違い、また加工具合や塗る日の気候によっても仕上がりに差が出ます。漆は生きものだと言われる所以です。上塗職人は長い経験と感覚によって、最良の結果が生まれるように漆を調合し、作業し、乾きを調整します。チリやホコリを避けるため常に身辺を清めて作業する姿を見て、まるで修行僧のようだと語った方もいました。


上塗師

谷内清治(やち せいじ)

谷内

上塗に使う漆は、自分で調合しています。「漆を識らないと、上塗の腕は上がらない」と、よく先輩に言われました。それから何度も漆合わせを行ってきて、今頃ようやく、漆液の性格や顔が見えてきたかなと思っています。綺麗な上塗の肌、艶になるよう、ときどき漆に話しかけている自分がいます。


上塗師

外 雄二(そと ゆうじ)

外

上塗は、チリ・ホコリとの闘いです。せっかく刷毛通しや塗り肌が良くても、ひとつのホコリでその品物は商品となってくれません。そうした失敗があると落ち込むときもあるのですが、仕上がった塗りものを見ていて、自分が塗った事も忘れて美麗だと思う事もあります。


中塗師

塚田 等(つかだ ひとし)

塚田

中塗を担当しています。早く綺麗にと念じて多くの器を塗ってきたのですが、毎日漆液も器も違い、この仕事に飽きることはありません。最近は上塗も手掛けていますが、刷毛通しや直りに対してまだまだ納得がいかず、塗り直す事もしばしばあります。
「漆を使いこなす」とは、漆に自分が合わせていける事かなと思っています。



蒔絵(まきえ)

東アジアで盛んな漆芸には様々な加飾技法がありますが、蒔絵は遠く奈良時代に日本で生まれ、日本独自に発達した技法といわれています。漆で文様を描き金粉等を蒔いて仕上げる蒔絵は、その物語性に富んだ意匠を含めてまさに日本の精神性を最も表現する工芸といえるかもしれません。マルコ・ポーロが「黄金の国ジパング」と書き記したのは、蒔絵で装飾された中尊寺金色堂を伝え聞いたのでは..という説もあります。
蒔絵師は様々な材料と多彩な技法を駆使して、器物を生かした意匠と表現を選び、漆器に華やかさや荘厳さを加えます。


蒔絵師

水守 登(みずもり のぼる)

水守

蒔絵は、筆で描くだけではなく、金粉の蒔き加減や漆固めした金を研ぎ出していくところが要です。器形や絵に合わせた表現を選んで1つ1つの手順を踏んでいかないと、良い仕上がりにはなりません。蒔絵は手に取って細部まで見られるので、技法の組み合わせも大事です。近年、金が高騰して、金粉が昔に比べてとても高いのが悩みです。


蒔絵師

中室惣一郎(なかむろ そういちろう)

惣一郎

桃山時代に多く輸出された漆器の殆どは、蒔絵のついたものでした。その時代に比べると蒔絵の技法や技術は随分進んだと思います。しかし、線の伸びやかさや力強さは、とてもかないません。技術だけでなく意匠も併せて、いつかあの時代の品物に追いつき、「出来るなら追い越してやろう」などと思っています。