漆の木の命をつなぐ


漆の一滴は血の一滴

漆掻きと漆の実漆液は漆の木にキズをつけて採取します。人が怪我をすると血小板の働きで傷口を防ぐように、漆の木もキズをつけられると自ら治療するため、急いで光合成により漆液を生産し、傷口に滲ませます。漆はそれを一滴ずつ掻き取ったものです。

この傷口の養生には4~5日かかるので、漆の採取は5~6日に1回のペースで行われます。期間は6月初旬から10月までの約150日間です。この間に採れる漆の量は、20年生の木で200グラム前後です。漆の一滴は血の一滴と云われるほど貴重なものです。この間、名人と云われる人は良質の漆液が出るように漆の木を調教しながら採取します。漆液は、木ばかりでなく採取人によって品質が異なります。

秋の終わりには、満身創痍の漆の木は切り倒されます。長い人間との付き合いで、漆の木は切り倒されることを知っているかのようです。来年から実をつけられないため、生涯最大の実を枝が折れるばかりにつけます。人はそれを見て漆の木の命である漆を活かすことを心に誓います。


再生の器、漆器

切り倒されることを知りつつ漆液を滲ませてくる漆の木は、木の命である漆を人に託してきます。木製漆器の仕事は託された命をどう活かすかです。さまよえる魂を安住の器に宿らせる。その技を精一杯高めるのが物づくりです。日本の物づくりは入魂作業と云われていますが、漆芸はその根本であり国技です。史上最良の漆を使用することは、輪島屋善仁のめざす日本漆芸史上最良の物づくりの根本理念です。木地へ最初の漆を塗ると、元の木へ還るようにしみこみます。漆の木の命が再び安住の場所を得たようです。漆器が「再生の器」と云われる理由の一つです。

生漆と木地固め