八橋蒔絵螺鈿硯箱 [再現]
[幅197mm 奥行273mm 高さ142mm]
この硯箱の意匠は、「伊勢物語」第九段の情景を描いたものです。主人公が東下りの途中に立ち寄った燕子花の名所・三河国八橋で歌を詠み、都や妻を思い出して涙する、という場面です。
琳派を代表する江戸中期の天才芸術家・尾形光琳は、厚手のアワビ貝、鉛板という材料を大胆に用いながらも緻密な感性でそれらを巧みに配置し、鮮烈な印象を与えるこの名品を作り上げました。
蓋を取り上段を外すと、下段内部と底面には流水文が全面に描かれ、橋の下を流れる川が表現されています。箱という立体物を生かして全てを一度に見せない重層的な文様構成は、まさに3次元の工芸意匠ならではの醍醐味といえるでしょう。
原本は江戸時代(18世紀) 、国宝 東京国立博物館蔵
写真は「日本の意匠6」(京都書院)より